日々叢書(この著者ちょこちょこ昔の文章直します。スイマセン)

ファミコン語

別に「復活の呪文」とか「パーティ」とか「ボスキャラ」とか
ファミコンゲーム特有の語法のことをいうわけではなく、
ファミレス、コンビニを中心に広がる
若者の「ヘンな接客用語」のことだそうです。

例を挙げると
●ベニショウガの方はいかがいたしましょうか
(どっちの方角だよそれ!)
●こちら生ビールになります
(これからなるのかよ! じゃあ今は何なのかよ!)
●ホットコーヒー食後でよろしかったでしょうか
(過去の気持ちを聞くのかよ! 今はどうでもいいのかよ!)
●ショート・ラテでお待ちのお客様〜
(「〜で」ってバス停かよ!)
●あたためはいかがいたしましょうか
(普通動名詞で言わないだろうその言葉は)
というようなやつですね。

これ、いわゆる「言葉の乱れ」というのとはちょっと違うのは、
・誰かに言わされている
・丁寧な言葉を使おうという意図で言っている
ということです。外資系のファミレス/ファーストフードは
マニュアルで事細かに従業員の行動が規定されているのだが、
その中に誤訳や生硬な訳文が混じっているのではないか
(そんなマニュアル、別に国語学者が監修するわけじゃないから)
という解説をニュースでやってました。

でもこれ、正しい言葉に直すとなかなか難しいですよ。
●ベニショウガはお付けいたしますか
●生ビールをお持ちしました
あたりは快調ですが
●ホットコーヒーは食後ですね
でしょうか? ちょっと馴れ馴れしい気がします。
●ホットコーヒーは食後のご注文ですね
か? 苦しいけどこのへんでしょうか。

実際には
●お客様、ホットコーヒーは、食後・・・
と言いよどんでいると「ええ」と言ってくれるというパターンが
多いような気がするが、とてもそんなことマニュアルに書けない。

●ショートラテをお待ちのお客様
は、これで全然オッケー(この言い方の当否はあとで
議論する)という気がするけど、なぜわざわざ
「で」にしたがるんでしょうね。わからん。

●あたためはいかがいたしましょうか
これは確かに、強烈に気になる。でも、
●あたためましょうか?
●あたためてよろしいでしょうか?
どっちも確かに言いにくいじゃないですか。

ファミコン語は一種の簡略化された敬語で、
結構言いにくい言葉を巧みに避け、かつ覚えやすいように
設計された言葉遣いだという気がします。

ぼくの感想では、これ、全然気になりません。
たかがファミレス/コンビニです。
濃密な人間関係や細やかな交情を求めに行くのは最初から
間違ってます。それよりなにより、敬語を使ってくれようと
いう心意気がうれしいじゃないですか。東南アジアの人に
使われるビジネス用に簡略化された英語みたいなもんで、
必要があって生まれてきた言葉なんだからいいんじゃないかと
思います。

こういうちょっとした「若者の言葉の問題」をうれしそうに
指摘するのはあまりいい趣味ではありません。というのは
現代の我々中高年のしゃべる言葉にしてもはなはだおかしい
だろうからです。

たとえば「笑止」という言葉がありますが、
現在ではこれを「(相手のいうことが)片腹痛い(おかしい)」と
いう意味に使います。しかし、これは本来「笑いが止まってしまう
(ほど相手が気の毒だ。同情にたえない)」という非常に重い
言葉です。まあ中間に「(プッ)オキノドクニ・・・」的な
皮肉なニュアンスの時期はあったのかもしれませんが、
意味が正反対になってしまったわけで、なかなか恐ろしい。

よく言われるのが「すみません」という言葉ですがこれは
「謝ったぐらいでは済まない(から死んで詫びる)」という
意味でしょう。「いやあ、すみません、すみません」というと
「あんた、すみませんって言って、それで『済ませて』るじゃ
 ないか」
といわれても仕方ありません。正しい言い方は
「ごめんなさい」
「おゆるしください」
でしょうが、これは現在ちょっと聞かない言葉なので、
逆にコバカにしてんのかと思われかねません。
このように言葉は意味内容だけでなくそのときどきの
習慣と深く結びついているので、教科書程度の浅薄な
知識ではなかなか割り切れない局面が多いです。

さきほど触れた「全然オッケー」という言葉ですが、
「全然」「全く」は否定形で結ばなければならないという
ことが常識的に言われますが、これホントでしょうか。
字の意味からいうとどっちも「すべて(every)」という意味です。
「まったい」という言い切りがあることからもわかる。
否定形で結ぶのは単に慣習の問題で、例の大字林にも
「一体生徒が全然悪いです」(漱石、坊ちゃん)という
例が載っています。
ぼくはゼンゼンという語感が面白いので
「全然オッケー」「全然快適だよ」という言い方をよくします。
ということで、ぼくがこの言葉を使っても不用意に聞きとがめ
ないでください。;;;

ファミコン語に戻りますが、ぼくがこの言葉を知ったのは
「ブロードキャスター」というオジサン系のニュースショーです。
で、新宿高島屋が新入社員のファミコン語を問題視し、
プロのことば指導員を雇って新入社員の矯正に掛かっている、
大変な時代デスナーみたいな文脈の項目だったんですが、
シメのコメントを任されたプロのことば指導員(どこでどういう
資格を身に付けたプロなんだか知りませんが、年配の女性でした)が、
「最近の子は家庭でのしつけ?↑ があまりないみたいなんですよね?」
と、最近の物言いの中ではプルトニウム級に不愉快な
「名詞での語尾上げ(半疑問形)」を使ってい、
10数分使って最近の若者を難じようとしたコーナー全体の
主義主張がガラガラと音を立てて崩れ去ったように
(少なくともぼくには)感じられたのでした・・・
別にフクドメさんは聞きとがめてませんでしたけどね。

Last Update : 2003/12/13 21:53