日々叢書(この著者ちょこちょこ昔の文章直します。スイマセン)

政治的に正しい脅し文句

いぜん日記に書きましたが、スポーツマンシップでがんばって欲しい
例のあの新聞の勧誘員とインターホン越しにモメたときに、
勧誘員の方に「ぶっころすぞ」とスゴまれました。ヘタレのわたしは
ビビるだけビビって、結果的に画面付きのインターホンを買うに
至るわけですが、その後法律に詳しい人に「それは、それだけで
犯罪を構成するから告発しようと思ったらできる」と言われました。
ぶっころすぞ、というだけで罪(恐喝罪?)に問われるらしいんです。
とは言ってもねえ。加害者1人、被害者1人が夕暮れのドアを挟んで
相対している状況で、ある言葉を言ったいわないで立件するのは
難しいと思います。

しかし、このことに関連していわゆる「2ちゃんねる」系の
用字法で「氏ね(しね)」という書き方があるのはそのせいか、
と思いました。「死ね」とストレートに書いてしまうと犯罪を
構成してしまう。しかも掲示板は日時や IP アドレスがばっちり
記録されてしまう。その後ホントに人死にでもあったら計画的に
なってしまって目も当てられない。その保険として氏ねと。
こういう言い方が流行るのではないかと思ったわけです。

ちなみに、いわゆる暴対法のカラミで「山口組のものだ」
「稲川会から来たぞ」というと、それだけで犯罪を構成してしまうので
「うちはヒシのもんや(バッヂが菱形だから)」「稲穂のマークは
農協じゃねえぞ」などという言い方でナゾを掛けるそうです。
他にももっと伝統的な言い方としては「誠意を見せい」
「どう責任とるんや」というのもありますね。
(なぜこういう例文を書くときって関西弁になるんだろう)


これ、「めくら」=>「目が不自由な人」のようによく揶揄される
「言い換え」の問題に似ています。いわゆるポリティカリー・
コレクトネス(politically correctness 政治的に正しい言い方、
PC)というやつですね。これ、アメリカは非常にひどくなっていて
「short(背が低い)」=>「vertically challenging(垂直的にがんばっている)」
などという例まであるそうです。

ただ「目が不自由な人」「vertically challenging」が
(いちおう)配慮、思いやりに根ざしているのに対して、
「氏ね」「ヒシのもんや」は自分が法的に追求されないための
逃げであるという点が違います。

あと、口頭で言われる「ぶっころすぞ」の場合、
漢字ではなくて音声で伝わるので、
「いや、あれは実はぶっコロすぞといったので、
うちにいるコロちゃんという犬のようにかわいがるぞという
意味です」などとわけのわからない言い訳は利きません。

2003/10/29 追記:
上記とは若干話がズレますが、
最近よく見かける言い換えとして
素人のヤミ売春のことを「援助交際」と言ったり
「割り切ったお付き合い」と言ったりすることもあります。
これは犯罪の成立を避けるために売買の両者が使う符丁ですね。

また、さらに話はズレますが、
最近よくあるSPAM(迷惑メール)の見出しで
「VIAGRA」を「V1AGRA」、
「INK CARTRIDGE」を「1NK CARTRIDGE」などと書き換えている例が
あります。これは宣伝メールだと見出し語でハネている
受信者が多いので、これをかいくぐるために書き換える例です。
これなどは、明らかにいやがっている人に対して、
無理やりメールを受信させようとしているわけで、
凄みがありますよね。

まとめると、

・死ね=>氏ね、金を出せ=>誠意を見せろ
  脅迫罪の訴追を免れるために、言い換えている。
  送信者と受信者は加害者/被害者として対立している

・めくら=>目の不自由な人、short=>vertically challenging
  人権が放送や出版によって侵害されないために言い換える。
  送信者と受信者は対立していない

・私娼、売春=>援助交際、割り切ったお付き合い
  取り引きの打ち合わせが犯罪を構成しないために言い換える。
  送信者と受信者は共犯関係

・VIAGRA=>V1AGRA、INK CARTRIDGE=>1NK CARTRIDGE
  受信者がメールの受信を拒否できないために書き換える。
  送信者は受信者に片思いの関係

となります。

ところで、なぜプリンターのインクカートリッジ関係の
スパムってこんなに多いんでしょうかね。

Last Update : 2003/10/27 17:10